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フラムの日々

クロノス小説~地獄から・・・~

~第三章~
地獄から・・・

「用意はできましたか?」
ヴァレンが荷物を持つとルシアに振り返って言う。
「はい!準備こちらもOKですよ!」
ルシアが背筋を伸ばして言うと、ヴァレンは思わず声を出して笑ってしまった。
「はは、やっぱり元気がいいですね。さて、行きましょうか。」
教会のドアを開けると、早歩きでルシアも後を追った。
ルシアは間接部分だけが革でできていて腕が曲げやすいようにしてある金属製の鎧を渡されてそれを着ていた。
同じように足にも着けられた、いつもと違って違和感があり、少し動きにくかった。
ヴァレンも普段とは少し違う服を着ていた。
もしかしたら魔法力を高めるための服なのかもしれない。
しばらく歩くと噴水のある広場についた。
「マエルさん。例の件です。」
「あぁ。」
と一人の男がいた。彼はマエル、カノン魔法学校も認める優秀な魔法師でオラクルにも所属していたという、かつてシドスを受け入れ諸悪の根源となったと言われているが、
ルシアには良く分からなかった、現在はゲートの移動のためのボランティア活動をしているという。
「すこし目が回るかもしれないけど、我慢してくださいね。」
そう言われてルシアが「へ?」というと共に、目の前の景色が霞んで白くなった。
空中に浮いてるような感覚がしてあたり一面が真っ白な世界に変わる。
が、それもほぼ一瞬のような出来事だった。
「んぁ・・・頭がクラクラするぅ・・・・」
やっぱり、とヴァレンが言うと手を差し伸べてルシアを起き上がらせた。
「今のがワープ現象なんですけど、何十回かやってれば何とか慣れますよ。」
ルシアが冗談じゃないとでも言うような表情をするとヴァレンがいつものように笑う。
「そうだった。ここが・・・ケタース神殿?」
ルシアが周りを見回すと、ずいぶん古いように見える壁やその壁に張り付いた蜘蛛の巣、異様な形の模様などが書かれていた。
「えぇ、ここがケタース神殿です。」
「なんか薄気味悪いところですね・・・」
ルシアが曇った表情で言う。
「ですね。来るのは初めてじゃないのですが、好きではありませんねこの雰囲気は。」
そういうとヴァレンが思い出したようにルシアを振り返った。
「そうだ、奥地で仲間が待っていますから。そこまで早く行ってしまいましょう。それとここにもモンスターが出るので、剣は抜いておくように。」
そういわれるとルシアは慌てて剣を抜いた。
しばらく通路を歩いていたがまるで迷路のように複雑な構造だった。
ルシアはヴァレンの後を歩き、背後を警戒しながら歩く。
ヴァレンも同じように杖を持ち、警戒した様子は見せず、いつもと同じように歩いていた。
「う・・・」
ルシアが床を見ると人の死体が転がっていた。
死体は腐っていて異臭を放っている。
ルシアは口に手を当てると、死体から無理やり目を離した。
しかしヴァレンは平然とした様子で立ち止まりルシアを止めた。
「ルシア君、近くにいますよ・・・」
「え・・・?」
ルシアは口に当ててた手を離すと剣を構えた。
しばらくそこに立っているとルシアの背後の死体が起き上がった。
「ルシア君!後ろ!」
ハッっと振り返ると死体が起き上がって自分に襲い掛かってきている!
「うわああぁ!!」
するとヴァレンの杖が光を放つ!その瞬間死体が炎を上げて燃え上がった。
「注意してください・・・こいつらはゾンビですから。」
ルシアはコクっと頷くと深呼吸をして心を落ち着かせた。
すると周囲の死体がゾンビと化し、次々と襲い掛かってきた!
「さぁ、行きますよ!」
ヴァレンの掛け声とともにルシアも剣を握り、ゾンビへと斬りかかった!
「はあああぁぁ!」
ルシアが片手でセルキスソードを振るうと軽々とゾンビの胴体を一閃し、絶命させる。
(斬れる!)
前に持っていた剣より明らかに切れ味が良い。戦闘中にも関わらずルシアは微笑を浮かべた。
「てやっ!ハッ!」
次々とゾンビを切り捨てていくと背後でヴァレンも同じようにゾンビを倒していた。
ヴァレンの周りには灰と微かな炎しか残ってはいなかった。
ルシアはヴァレンさんはいつも笑っているけど、戦闘になると人が変わったように強くなるんだなぁと感じた
「怪我はありませんか?」
「はい、何とか。」
「そうですか」
そう言うとヴァレンは微笑み先へ進みましょうと言い、進んで行った。
「あれ?」
とルシアが言うと床に光っているものが落ちていた。
「ん?何ですか?」
ヴァレンが振り返ると、ルシアはその光っている石のようなものを拾い上げてヴァレンに見せた。
「こんなのが落ちてたんですけど。何だろう?」
「これは・・・ダイヤじゃないですか?」
ルシアはそれを聞いて驚いた。手のひらに収まるほどの大きなダイヤだった。
「でも・・・コレ、ゾンビから落ちたんですけど・・・なんでだろう?」
「あぁ、多分そのダイヤを持っていた人なんでしょうね。途中でコイツらに襲われて死んでしまったってこともありますしね。」
そっか。と言うとヴァレンが帰ったらどれくらいで売れるか楽しみですね。と言い、ルシアは自分の鎧の中の右胸のポケットにしまった。
それから通路を歩くと下に溶岩が流れていて、螺旋状に巻かれていて上へと上がれる通路があった。
「足を滑らせないようにしてくださいね。」
とヴァレンが言うと。
「こんなところで滑りませんよ~!」
とルシアが言ってそうですね。と言い笑っていた。
「この上に仲間がいますよ。まぁ、最初は慣れにくいかもしれませんが・・・」
「慣れにくいって・・・?」
「いや、会えば分かりますよ。」
ルシアは「ん?」と少し首を傾げた。
螺旋状の通路を登り終えると広場があり、そこにヴァレンの仲間がいた。
大体10人はいるだろうか・・・
「やぁ、皆。お待たせ。」
ヴァレンが言うと
「遅い・・・何をしていた?」
一人のパラディンが言う、眼光が鋭く、そのパラディンは冷たいような印象を受けた。
ルシアも少し話しがたい人だと少しばかりか感じた。
「あぁ、ごめん。この新入りのルシア君の武器をちょっと探したりしてね、遅くなったんだよ。」
とヴァレンはルシアに話しかけるのと同じように笑いながら話していた。
そのパラディンが髪にかかっている黒髪を手で払うと
「新入りなんて・・・お前はそいつを殺させにきたのか?」
呆れたように溜息を吐くとそのまま踵を返した。
「ヴァレンさん・・・殺させにって・・・?」
「しっ、ちょっと待っててください。」
指を立てて口に当てながら言うとそのパラディンの名前と思われる名を呼んだ。
「アーネスト、ちょっと待て」
何だ?とパラディンは、アーネストは振り返った。
「僕は殺させにきたんじゃない。育てに来たんだ。そこらへん勘違いしないでほしいね。」
ヴァレンはいつもと違い真面目な表情でアーネストに言った。
「・・・勝手にしろ。」
アーネストは手で合図すると周りのバルキリーやウォーリア達が武器を構えてアーネストの後を追った
「ごめんよ、彼は昔からああいう性格なんだよ。」
ヴァレンが小声でルシアに話すと
「そうなんだ・・・」
とルシアも小声で返した。

「いいか?ここからは死者がでるかもしれない。十分注意しながら進む。」
アーネストが左腰についた剣を抜く。
彼の右腰にももう1本少々派手な剣を下げていたが、それは抜かなかった。
ルシアは双剣だとは思わなかったが予備なのかとこの頃は思っていた。
そしてアーネストが吸い込まれるようなゲートに足を踏み込み、そのまま体が中に入っていった。
これもマエルのワープ術と同じなのだろうか、次々と戦士たちが入っていく。
「僕らも行こうか。」
ヴァレンが軽くルシアの肩を叩くと、そうだ、と自分のローブのポケットから1つ奇妙な形の模型のようなものを取り出した。
「これはゲートスクロール。危なくなったり、クエストの中断とかの時に天にかざせば勝手にクロノス城に戻ることができるんだ。」
ルシアは受け取るとポケットに入れ、セルキスソードを抜いてアーネスト達の後を追うようにゲートに入る。
ゲート移動の現象が起きてまた頭がクラクラする。。。
「うえええぇぇ・・・きもぢわる・・・」
ルシアは顔を青くして頭を下げる。
「さぁ、そんなことしてる場合ではありませんよ。行きましょう。」
アーネストが列のようにして率いている後ろ側についた。
「ヴァレンさん・・・ここって。」
ルシアは気味悪そうに周りを見渡す。
「ここはケタース・ヘルと呼んでいます。由来はこの下の溶岩や周りの風景が地獄のようだからそう名づけたそうですよ。」
「あまり居心地は良くないですね・・・」
ルシアは下唇を噛み締める。
そこで、前にいる一人のバルキリーが声を掛けてきた。
「こんにちは、あなたは・・・新人なの?」
ルシアはいきなり聞かれたので少し戸惑い、はいっと頷いた。
「へぇ~、私もね、これでまだ3回目なの。勿論、新人扱いよ。それと私はキャロル、よろしくね!」
ルシアはなれない口調で「俺は・・・ルシア、宜しく・・・」と目を在らぬ方向へ向けながら自己紹介する。
キャロルは微かに微笑むとお互いに頑張ろうと言って来た。
しばらくルシアは彼女の後ろ姿を見つめていると
「ルシア君?ルシアくーん?」
とヴァレンがルシアの目の前で手を振ってみる。
ハッとルシアはヴァレンを見上げる。
「おや?邪魔しちゃいましたか?」
ヴァレンが少々おちょくったような口調で唇に笑みを浮かべると、ルシアは「な、な、!なにがですかぁ!」と慌てて手を振る。
「別にぃ~何でも無いですよ~」
唇に笑みを浮かべたまま「フフフ」と笑うヴァレンを見てルシアは口をぱくぱくさせ、赤面していた。

しかし、そんな状況を断ち切るようにアーネストが声をあげた。
「モンスターだ!注意しろ!」
ルシアとはその声に逸早く反応し、ルシアは剣を構える
前方にいるキャロルも弓を構え、他の戦士たちもそれぞれ武器を構える。
(これだけいれば・・・敵なんか!)
前方から恐竜のような体をしているが顔は変化しており、ちょうど人間で言う頬の辺りから牙が出ている、少し鳥に似ているようなモンスターが出てくる。
それを囲むようにして小型のモンスターも迫ってくる!
「デストラカンですね・・・それにダークメイト・・・」
ヴァレンは唯一人だけ、武器を構えず指を顎に当てて笑みを浮かべながら立っている。
「ヴァレンさん!何してるんですか!早く戦わなきゃ・・・」
ルシアは焦った様な口調でヴァレンに言う、しかし・・・
「大丈夫ですよ、彼が全て片付けてくれる。」
「え?」っとヴァレンから目を離し、前方を見るとさっきのパラディン、アーネストが既にモンスターに飛び掛っていた。
剣は綺麗に弧を描いて敵を切り裂いていく、そして何より急所を狙い、確実に切り落としている。
そして、「速い」
最後の1体のダークメイトの首を刎ねるとその亡骸を踏みつけ、高く飛び上がりデストカランの首の上で大きく体を捻らせる!
剣がデストカランの首に深々と食い込むと鮮血を吹き上げてその巨体が下の溶岩へと落ち、沈む。
アーネストは返り血一つ浴びず、剣にも血が付いてはいなかった。
ルシアは唯呆然とアーネストの姿を見つめる。
バルキリーでも無い限り、あのような戦闘は相当できるものではない。
「彼が、『神風(かぜ)のアーネスト』だよ。」
ルシアはずっと前を見たまま「す・・・げぇ・・・」
その様子を見ると戦士達は皆武器を収めた。他の戦士達も信じられない様な表情をして立ちすくんでいた。
が、それを断ち切るようにアーネストが振り返り、言う。
「何をぼやぼやしている?早く先へ行くぞ。」
そう言われると皆はハッと我に戻る。
「ところでアーネスト、ここからは部隊を分けて行動してはどうですか?」
ヴァレンは離れているアーネストに聞こえるように少し大きな声で喋る。
それに気づくとアーネストは頷く。
確かにこの様な迷路の様な地形で固まって行動するより分担して行動した方が効率が良い。
その分部隊の戦力は落ちてモンスターとの戦いは厳しくなるかも知れないが・・・
「現在部隊は僕も合わせて16名ですよね・・・なら8、8に分けましょう。」
アーネストは人は自由に取るがいいと吐き捨てるように言う。
「なら、ルシア君、君はこちらへ。」
ヴァレンは迷わず1番にルシアを選ぶ。
こんなにも早く選ばれるとルシアも正直驚き、そして何より嬉しかった。
「了解!」
ルシアは右手で敬礼するとヴァレンの後ろに並ぶ。
そうするとヴァレンがルシアを見るとニヤリと笑って見せた。
「じゃあ・・・キャロルさん、こちらへ。」
「はい。」
とキャロルはお辞儀をするとルシアの右側に少し離れて並ぶ
「は・・・?」
ルシアは表情を一変させる。
ヴァレンがこちらを向いて悪戯とでも言える表情を浮かべる。
ルシアは歯を食いしばるとヴァレンを少し睨み付ける。
「おや?僕は上司ですよ?命令には従ってもらわないとね、ルシア君?」
悪魔だ・・・とルシアは聞こえない様に口だけ動かしたように呟く。
キャロルは良く分からないように首を傾げるとルシアを見る。
「あ、あの、ルシア君・・・宜しくね。」
ルシアの目の前に右手を差し伸べるとルシアは少し戸惑いつつ手袋をしたままの右手を差し伸べ握手した。
ヴァレンはそれを見ると「あれですね、うん、あれ・・・」と顎に手を当てて頷く。
ルシアは溜息をついて首を小さく振った。
その後、ヴァレンはウォーリアを2人、マジシャン1人、もう一人バルキリー、そして支援型に育て上げられたパラディンを選ぶ。
「僕たちはこれで向かいます。小隊発見後、狼煙を上げて報告するので、そちらも宜しくお願いします。」
「あぁ。」
そう言うとアーネストはヴァレンを横切った。
その時にアーネストがこう囁いた。
「いつまでそんなことをしているつもりだ?アイツを使えば良いじゃないか・・・」
「そちらこそ・・・」
2人は顔も合わせずそう言い合う、しかしヴァレンの答えを聞くとアーネストは軽く舌打ちをし、「行くぞ」と部下達に言うと別の道を歩いていく。
「やれやれ・・・」
ヴァレンは呆れたような表情で首を振るとルシア達に振り返った。
「さて、僕たちも行きましょうか。」
ヴァレンは仲間を引き連れて前進した。


随分歩いたが、景色があまりにも変わらないせいか、進んでる感覚が全く無かった。
ルシアは何も言わないで歩いていたので空気が重苦しい感じがして堪らなかった。
そしてルシアは我慢できなくなり、口を開いた。
「あの・・・皆さん名前は?僕はルシアです。」
ルシアは皆の視線を受ける。
2人のウォーリアがまず言い出す。
片手に斧を持ち、片手に盾を持っているウォーリアが口を開く。
「俺はエタン、宜しくな。」
ルシアは宜しくと言うと彼と握手をする。
身長差は大体15cmは越えているだろう。
手もルシアより全然大きかった。
バルキリーと共に改造された人間だ、自分とは力なども全然違うのは分かっていた。
ウォーリアは力を、バルキリーは人間とはかけ離れた敏捷性と攻撃の正確性を受けている。
そうするともう一人、巨斧を持ったウォーリアが自己紹介をする。
「俺はタダイだ、宜しく。」
ルシアは同じように握手をしてもらう。
そしてマジシャンが自己紹介を始めた。
「私はヨエル、宜しくお願いしますね。」
ルシアは握手をしながら、マジシャンは皆こんな感じなのかな・・・と考える。
しかし、ヴァレンをチラっとみると「多分・・・違うな」と思った。
そして、支援として呼び出されたパラディンが紹介を始める。
「僕はロイス、宜しく。」
同じパラディンだが違う雰囲気を漂わせている。
そしてロイスと握手をし終えると、皆に宜しくと言った。
「ん・・・?」
ヴァレンは丁度話が終わった後足を止めた。
「どうか・・・したんですか?」
キャロルはヴァレンの顔を覗き込むようにして見て、ヴァレンの視線の先を見た。
「ゲート?」
皆が足を止める。
「入ってきたゲートでは無いようですね・・・中に入れる・・・」
ヴァレンは狼煙をあげる為、小さな玉を取り出して魔法で軽く火をつけ、地面にそれを置く。
「先に行きましょう、小隊が中にいるかも知れない。アーネスト達なら後で来るでしょう。」
ルシアは腰の剣を鞘から抜くとゲートを睨んだ。
「では、お先に。」
ヴァレンが先にゲートに入る。
そしてルシアが次に入ろうとするが、ルシアがこう呟く。
「俺・・・ゲート移動苦手なんだよなぁ・・・」
ゲート前に残った仲間が微かに笑った。
「じゃあ、お先!」
ルシアが入る。
やはり目が回り、気分が悪くなる。
頭を抱えたルシアがヴァレンの目の前に現れるとヴァレンはまだ慣れないのですか?とクスクスと笑っていた。
そしてキャロル、エタン、タダイ、ヨエル、ロイスの順にゲートから現れる。
皆慣れているようで平然としていた。
「ん・・・ここは?どこ?」
ルシアは気分悪そうにヴァレンに尋ねる。
「ん・・・構造は祭壇のような造りですね・・・」
「でも嫌な予感がするな・・・」
エタンが回りを見渡しながら言う。
「油断は出来ませんね・・・皆さん、各自武器を構えて置くように。いいですね?」
それぞれ武器を構え、奥へと進む。
その時、皆がほぼ同時に頭痛が起き、脳裏に数字が浮かぶ・・・
(何だこれは・・・八十・・・・88??)
「何だ・・・88って・・・」
ヨエルが呟く。
「私も・・・頭に88って数字が浮かんで・・・」
キャロルは不思議そうに皆を見回す。
しかし、ヴァレンは唯一人、笑っていた。
「なるほど・・・そういう事ですか・・・」
「え?ヴァレンさん、何か分かったんですか?」
ヴァレンはルシア達に向き直り、喋りだした。
「明確ではありませんが、本で呼んだことがあるんです。強大な敵がいる場所には大量の敵が一定に集中しており、その数が脳裏に浮かぶ・・・と。そしてその数が0に達したとき、つまり、敵を全滅させたときですね。その強大な敵が現れる・・と。」
ルシアが首を傾げたが。
「つまり・・・ここにいる大量の敵を倒せばいいのかな?」
ヴァレンは恐らく・・・と答えた。
「だけど俺達の目標は違う、そうじゃないか?」
タダイがそう言うとロイスは確かに。と頷く。
「でもさ、この奥にその・・・小隊だっけ?がいるかも知れないじゃん。行って見た方がいいかも・・・」
ルシア2人に言う
「僕も気になることがあるのでね。奥に行って見たいですが。」
ヴァレンが奥の方を見ながら言うとそれに反対する様にタダイが言う。
「いや、調べるのだったらアーネスト様達が来るまで待ったほうが良いかと。」
ヴァレンはその言葉を聞くと「そうですね」と考え込んだが。
「いや、行きましょう。これは隊長、そして上司命令ですよ。」
ヴァレンがハハハと声を上げて笑うと、ルシアが
「何も・・・無茶苦茶な・・・」
と微かに呟く。
それが聞こえたのか、ヴァレンがルシアを見ると。
「ルシア君、何だったらセルキスソード取り上げても良いんですよ?」
ヴァレンは笑いながら脅してきて、ルシアは前言撤回・・・と俯いて言う。
その会話を見てキャロルだけは笑っていたが他の仲間は少し呆れた様な表情で見ていた。

奥へ向かうための階段を上っているとルシアが走りだし、最初に階段を上り終えた。
「遠足じゃあ無いんですよぉ・・・」
ヴァレンが笑いながら言う。
しかしルシア目掛けて1本の刃物が飛んでくる!
「うあ!」
ルシアは体を反って避けると前を見た。
「ルシア君、どうしたんですか?」
ヴァレンが次にたどり着くと
「!?」
目の前には無数のクルーク、吸血コウモリ、ゴブリンなどがいる。
「ロイス!スキルを!」
ヴァレンが吼えるように言うと剣を目の前に構え、ホーリーアーマー、ライフアップ、ミラーシールド、エンカレッジの順にスキルを分け与えていく。
ホーリーアーマーは防御力をライフアップは体力を、そしてエンカレッジは攻撃力を大幅に上げてくれる。そしてミラーシールドは一定だが、敵の攻撃を弾いてくれる事がある。
ルシアの足元からそれぞれのオーラーが出ると自然とスタミナも湧いて来る。
(これが支援のスキルって奴か・・・)
ルシアは自分が少し強くなったように感じる。
敵は次々と襲い掛かってくる、それぞれの武器を構えて・・・
「どちらにしろ・・・やるしかないですね。」
ヴァレンは唇に微かな微笑みを見せる。
「さぁ、やりますか!」
ヴァレンの合図とともにルシアが走り出す!
キャロルは1度に何本もの矢を構え、それを放った!
ヴァレンとヨエルは魔法の詠唱を始める。
エタンとタダイもルシアの後を追うように走り出す!
「はあああ!!」
ルシアはセルキスソードをゴブリンの首元に振るう!!
しかし、鈍い音と共に攻撃はゴブリンの斧によって止められていた!
「え・・・」
ルシアは唖然としてその場に立ち竦む。
(コイツ・・・一体・・・!!)そして背後から何体もクルークやゴブリンが攻撃にかかってきた!
「どう・・・する!?」
ルシアの顔の真横を矢がものすごい速さで通り貫ける!
そしてそれがゴブリンの脳天を貫き、その後に放たれた矢がさらにクルーク達を貫いた!
「ぼやぼやしないで!ルシア!」
そう言ったのはキャロル、彼女だった。
「あ、ごめん!!」
ルシアは剣を離し、再び構えるとゴブリンの胴体を一閃する!
(57・・・数字の数が減っていっている・・・)
ルシアは空中を舞う吸血コウモリをなぎ払いながら次の目標へと走る!!
飛んでくる斧や剣が頬を切る。
しかし、ロイスのマイナーヒーリングによって回復しながら戦う!
「エクスプロージョン!」
ヴァレンの魔法だ!敵との間に大爆発が起きる!
「うあ!危ないなぁ!!」
ルシアが戦いつつもヴァレンに言うと、
「大丈夫です、あなた達は術標的に入れてませんから炎に包まれても何ともなりませんよ?」
「なんだ!なら平気だ!」
ヴァレンの発動する魔法の中にそのまま突進し、中で燃える敵を切り刻んでいく!
(32・・・あと少しか!?)
エタンとタダイは軽々と敵をなぎ払い斧で叩き潰して行く!
「2人は?大丈夫ですか?」
ルシアが言うと、余計なお世話だと言い捨てた。
「じゃあそっちはお願いします!」
ルシアはバットゴブリンに斬りつけるがチャクラムで防がれる。
「やっぱ・・・コイツらはそこら辺のモンスターとは違うみたいだな・・・」
ルシアは深く息を吸うと。
「これは防げないだろ!!」
交えたままの剣とチャクラムの間に光が生まれる!
ルシアの特技の一つ、マナクラッシュを発動させる!!
チャクラムは粉々に砕け、敵の頭上から真っ直ぐに剣が振り下ろされる!
「よっしゃ!」剣の血を払うとさらに走り出す!
(17・・・随分減った!)
キャロルはヨエルの放つアイスプリズンに続けるように弓を放っていく!
凍りついた敵に弓を放ち、確実に倒せるからだ。
「そろそろ・・・矢も少し無くなって来たわね・・・」
冷静な表情で弓を放ちながらキャロルは呟く。

そして、最後の1匹にルシアが止めを刺す!
(  0  )
0と頭の中に浮かび、ルシアは一息つく。
「はは・・・こんなに戦ったの初めてだ。」
ルシアは息を荒くしていたが、ロイスのヒールで少しは楽になる。
「何も起きないようですね・・・」
ヴァレンはボソッと言う。
「無駄な戦いだったってことか・・・?」
エタンが言うと、皆分からない。と言った。
「なんだよぉ・・・無駄だったのぉ?」
ルシアがガクっと肩を落とす。
ところが地面が揺れだす・・・
「え?地震?」
キャロルが不安げに言う。
「多分違うでしょう・・・何か大きなマナを感じる。」
ヨエルがそう言うとヴァレンが深く頷く。
「確かに・・・感じますね。嫌なのが・・・ね。」
揺れはどんどん激しくなり、そして・・・

「なんだ・・・こいつ!?」
体長約7メートル近くはある。
両手には鋭い鋏が付いており背中には透き通った羽が生えてる。
しかし蜘蛛のような足をつけていて、そして虫のようだが恐ろしい表情をしている。
まるで、蟷螂のような姿だった。
『ほう。こんなところに来るなんてな。一体何年ぶりだ。』
体に響いてくるような恐ろしい声が祭壇全体に響き渡る。
モンスターなのか、だが普通モンスターには意思というものが無い。普通は喋れない筈だ。
「まさか・・・」
微かにヴァレンの額に汗が滲む。
彼の変化の様子に皆が気づくと、普通の敵ではないのは分かっているが、より恐怖が増した。
『悪いが、貴様らを逃げて帰らすわけにはいかない。こちらも計画があるのでな。』
敵はそう言う。
しかしヴァレンは相手を見上げながら言う。
「そんな身体になってまで、力というものは手に入れたいものなのか?【シュレイダー】」
そのシュレイダーという敵は微笑すると高く笑い始めた。
そしてヴァレンの言葉にルシア以外の仲間達が驚いて反応する。
『よく知っているな、人間風情が。』
「お褒めの言葉、ありがたくいただいてきましょう。か」
軽口を叩いているがヴァレンの右手は、杖を握っている腕は震えていた。
そしてルシアがハッと思い出す。
「ヴァレンさん・・・まさか・・・シュレイダーって。」
ヴァレンはルシアをチラッとみると溜息をつき。
「えぇ、あのシュレイダーです。」
ルシアは自分のセルキスソードに目を落とす。
過去、マクアペル軍将軍、ラルフ=シュレイダーはセルキス将軍の軍隊によって兵を失い、シティス=テラの砂漠で絶命した。
しかし、マタリエルの手によってこの様な姿になり蘇らされた。そしてセルキス将軍との死闘により死亡したはずだが・・・
「なんで・・・生き返って。」
ルシアは拳に力を入れて唇をかみ締める。
「シュレイダー、貴方に一つ聞きたい事がある。貴方が生きているのなら、他のも・・・生きているのですか。」
『ふん、教えたところで貴様らはここで死ぬのだ。教える必要は無い。』
シュレイダーはヴァレンの言葉を切り捨てるとヴァレンは腰にかかった黒い布を解きだした。
「残念です。」
ヴァレンは黒い布を払うとその中からは1本の杖が現れた。
『それは・・・ちぃ!我が軍よ!奴らを殺せ!!』
シュレイダーは焦ったように言う。
次々とスケルトンが現れ剣を振りかざし、襲い掛かってくる!
各自武器を構えると戦闘態勢に入る!
「頼みますよ、アグウステ・・・」
(えぇ!わかりました!)
ヴァレンはそんな名前など無い人の名を囁く。
するとヴァレンの杖の先端が白く光り!一瞬にして魔法がかかる!
「焼き尽くせ!地獄の業火!アブソリュートファイア!!」
スケルトン達の下が赤く光った瞬間!!眩しいほどの閃光とともに爆炎が吹き上がる!
塵すら残らず、スケルトンの姿は消えていた。
「すっ・・・げぇ・・・」
ルシアは目を丸くしてそれを見ていた。
しかしそれを断ち切るようにしてヴァレンは言う。
「ルシア!何してるんです!敵を倒しなさい!」
ルシアは彼の言葉使いに驚くと姿勢を正し、敵へと走る!
『く、これが神の力か。厄介な!』
シュレイダーは怒りを込めた口調で叫ぶ!
『だが!遅い!!』
シュレイダーは一瞬にしてタダイに飛び掛り!そしてその鋏でなぎ払う!
「がっ!」
戦斧では防ぐ暇も無く、タダイは祭壇の下のマグマに突き落とされる!
「タダイさん!!」
ルシアは叫ぶと堕ちた方向へと走り出す!
それを援護するようにキャロルがルシアの背を狙う敵を弓で倒していく。
ルシアは祭壇のしたのマグマを覗き込むと、辛うじて岩を掴んだタダイが居た。
「タダイさん!俺の手に掴まって!!」
ルシアはタダイの左手には届かないがにてを差し伸べる。
しかしタダイは掴まろうとしない。
「タダイさん!どうしたんですか!!早くっ!!!」
ルシアは必死で手を伸ばすとタダイが口を開く。
「無いんだ、右手が・・・」
「えっ・・・」
ルシアは驚いたような、そして泣き出しそうな表情になる。
「落ちる寸前ここに掴まったが、斧を落としちまって、そのマグマが吹き上がって、やられちまった・・・」
右手をみると確かに無くなっている。そして血が流れ、それがマグマへと流れていく。
「そんな・・・くそっ!」
ルシアは拳が白くなるくらいに握り締めて祭壇の床を叩く。
「ルシア・・・お前は生きろ。お前ならやれるはずだ!」
ルシアが泣き崩れているとその言葉で頭を上げる、が。
その視界には既にタダイの姿はなかった。
「くそ・・・くそおぉぉ!!!!」
ルシアは今にも壊れそうな人形のように立ち上げると、憎悪を込めた眼で敵を、シュレイダーを睨みつける!
「この・・・お前なんか・・・!!」
ルシアは目の前に映るスケルトンを次々と切り倒していくと、ついにシュレイダーの頭上へと飛び上がる!
「くそおおお!!お前なんかっ!!!」
セルキスソードが青白い光を発するとそれを叩きつけるようにして斬りつける!
ジンっと腕に振動が伝わる、防がれた!?シュレイダーの鋏によって攻撃は軽々と防がれていた。
『小僧、懐ががら空きだ・・・』
「えっ・・・」
シュレイダーはもう片方の腕でルシアの鎧の右胸を貫く!
「ぎゃぅ!」
鋏は鎧を軽々と突き破る!そしてルシアはそのまま飛ばされると糸の切れてた操り人形のように崩れて倒れた。
「ルシア!!」
ほぼ全員がルシアに視線が行く。
ロイスも必死にヒールをかけるが一向に目覚める気配が無い。
「遅かったか・・・」
ロイスは微かに呟くと歯を噛み締めた。
「矢が尽きたわ・・・」
キャロルがいうと足の股につけた短剣を取り出した。
「前方で戦ってるのはエタンだけです・・・厳しいですね・・・」
アブソリュートファイアを連発で繰り出しながらヴァレンは言う。

「ちぃ、こんな事だと思ったぜ!」
ゲートからあのアーネストが出てくる。
「おや?アーネストですか。すみません。手伝ってくれませんかね?」
ヴァレンはあっさりと言う。
アーネストは何も答えずに剣を抜く。
「こいつは・・・シュレイダーか!?」
ヴァレンは頷くとアーネストは不敵な微笑みを浮かべる。
「面白い敵が居るものだな・・・」
今持っている剣を捨てるとアーネストはもう片方にかかっている剣を抜く。
そしてその剣もまた白い光を纏っている
「ヴィートゥス、いくぞ・・・」
眼にも止まらない速さでアーネストはシュレイダーの背後へと動く!
アーネストが率いる小隊たちも同時に襲い掛かる!
『くっ!人間風情が!調子に乗るなっ!!』
シュレイダーは羽を震わすと緑色の粉が散乱する!
アーネストはそれを剣で、ヴィートゥスで切り払う!
『何っ!?』
シュレイダーは身動きが出来ないまま羽を切り落とされる!
しかし毒を受けなかったのはアーネストだけだった。
他の隊員は無事でなはかった。
そして、その中に二人、短剣を持ったキャロル、そしてエタンも巻き込まれた。
『ちぃ!死ねぇ!!』
シュレイダーはアーネストに両手の鋏を振り下ろそうとしてくる。が
アーネストはその両手に向かって横に剣を振るう!
するとそこから青い刃が生まれ、飛んでいく!
『ぐぉ・・・がぁぁ!!』
シュレイダーの両腕が無くなるとアーネストはシュレイダーの頭上へと高く跳ねあがる!
「残念だったな。ショックウェーブ!!」
さっきの青い真空刃がシュレイダーの首を切断する!
「おい、シュレイダー。お前、何を企んでいた。」
アーネストは落ちた首に刃を突きつける。
『私は・・・このケタース神殿に・・・フレヌ・・・』
そう言い掛けた時点でシュレイダーは息絶えた。
「ちぃ、結局聞けなかったか。」
アーネストはヴィートゥスを鞘に収める。
「ヴァレン、例の小隊の件だが、モンスターにやられて遺体で発見された。」
「そうですか。」
「兎に角、今は負傷者を移動させろ。」
そう言うとヴァレンはルシアの元へと駆け寄る。
(これは・・・)
ヴァレンはルシアを見下ろすと微かに笑みを浮かべた。
「運の良い方だ・・・」
ヴァレンはゲートスクロールを使い、ルシアと共に光に包まれた。


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